不在者財産管理
不在者財産管理人とは,行方不明者の財産を管理する人のことです。この制度は,実務上は,遺産分割の際に利用されることが多い制度です。
民法907条1項は,「共同相続人は,次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き,いつでも,その協議で,遺産の分割をすることができる。」と定めています。この条文でいう,「協議で,遺産の分割をすることができる。」とある部分が,遺産分割協議と言われるものです。
ここでいう「協議」は,相続人全員で行われなければなりません。仮に,相続人の誰かが行方不明になっているような場合,遺産分割協議を行う事ができないので,不動産の名義変更や預金の解約が出来なくなってしまいます。
このようなとき,行方不明者のかわりに遺産分割協議に参加するのが,不在者財産管理人です。
不在者財産管理人は,家庭裁判所に選任を申し立てることにより選任され,不在者の代わりに遺産分割協議を行ったりします。
不在者財産管理人が選任されれば,遺産分割協議をすることができ,相続手続きを進めることができるのです。
1 選任条件について
相続人の中に行方不明者がいる場合, 不在者財産管理人を選任することができます。
そして行方不明である期間は,1年以上の場合に選任できると定められています。
2 選任方法について
不在者財産管理人は,家庭裁判所に必要書類を提出することによって選任されます。
申立人 | 利害関係人(不在者の配偶者,相続人,債権者),検察官 |
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申立先 | 不在者の従来の住所地を管轄する家庭裁判所 |
費用 | 収入印紙800円 事務連絡用の切手 |
必要書類 |
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3 不在者財産管理人の候補者について
一般的には利害関係のない被相続人の親族を候補者とし,そのまま選任されるケースが多いようです。
もっとも,適当な候補者がいない場合は, 家庭裁判所が弁護士等の専門家を不在者財産管理人として選任します。
4 不在者財産管理人の権限
不在者財産管理人は, 下記の2つのことをするとされています。
- 保存行為(財産の現状を維持するための行為)
- 目的物または権利の性質を変えない範囲内での利用または改良
この2つ以外のことを不在者財産管理人が行う場合には, 家庭裁判所の許可を得てする必要があります。
仮に,不在者財産管理人が,行方不明の相続人のかわりに遺産分割協議に参加する場合には,家庭裁判所の許可が必要ということになります。
5 不在者財産管理人が遺産分割協議をする場合
不在者財産管理人は,家庭裁判所の許可を得て,遺産分割協議に参加できます。
そして,その遺産分割協議書に,不在者の代わりに不在者財産管理人が署名押印することができます。
ただし,家庭裁判所は,不在者財産管理人が行方不明者に不利になるような遺産分割協議をしないために,遺産分割協議の内容をチェックします。
仮に,行方不明者に不利になるような遺産分割協議がされた場合は,不在者財産管理人に遺産分割協議の権限を与えずに, 遺産分割協議が成立できないようにするのです。